芽とりんごと、ひと皿の酢。イランの新年を迎える七つの「S」

りんごやにんにく、硬貨の器と、金魚の鉢を並べた新年の食卓 願いと引き寄せ
写真:Hamed Saber / Wikimedia Commons(CC BY 2.0)
もっと自然な音声で聴くには

お使いのブラウザーに備わっている読み上げ機能もご利用いただけます。

iPhone・iPad:Safari

  1. Safariでこの記事を開きます。
  2. アドレス欄の左端にあるページメニューボタンをタップします。
  3. 「ページの読み上げを聞く」を選びます。

Safariの公式手順

Android:Chrome

  1. Chromeでこの記事を開きます。
  2. 右上の「︙」メニューを開き、「このページを読み上げ」を選びます。
  3. 再生画面で声や速度を調整できます。再生モードが表示される場合は、「標準の再生」を選ぶと記事の全文を聴けます。

項目が表示されない場合は、Chromeの公式ヘルプで利用条件をご確認ください。

PC:Microsoft Edge

  1. Microsoft Edgeでこの記事を開きます。
  2. 記事本文の上で右クリックし、「音声で読み上げる」を選びます。
  3. 画面上部の「音声オプション」で、声や速度を変更できます。

Windowsでは、Ctrl+Shift+Uでも読み上げを開始・停止できます。Edgeの公式手順

メニュー名や利用できる機能は、ブラウザーのバージョンやページによって異なる場合があります。

りんご、にんにく、酢、そして皿いっぱいに伸びた緑の芽。イランの新年の食卓には、花や甘いものと一緒に、台所で使う身近な品が並びます。選ぶときの手がかりになるのは、ペルシャ語の名前の最初の音です。

この飾りつけは「ハフト・スィーン」。七つを意味する「ハフト」と、Sの音を表す文字の名を組み合わせた言葉です。新しい年に望むものを、七つのSで始まる品へ託します。

春が来ると、年が変わる

新年を迎える祝いは「ノウルーズ」と呼ばれます。ペルシャ語で新しい日という意味で、北半球の春分に合わせた節目です。イランに加え、中央アジアなどの広い地域で、それぞれ異なる習わしとともに祝われています。

イランのハフト・スィーンは、その祝いの中心になる食卓です。メトロポリタン美術館の学芸員マリアム・エフティヤールは、新年に家族がこの食卓を囲み、祝いの言葉を交わすと紹介しています。

何かが新しくなる日を、身近な人と同じ場所で待つ。食卓に並ぶ一つひとつは、そんな時間のために用意されます。国連の紹介には、大掃除や新しい服の準備も登場します。年が変わる前から、家の中では春を迎える仕事が進んでいるのです。

七つの名前に、願いを託す

スミソニアン国立アジア美術館は、りんごを美しさや豊穣、硬貨を豊かさ、皿で育てた芽を再生に結びつけて紹介しています。りんごは「スィーブ」、硬貨は「セッケ」と呼ばれ、どちらもSの音で始まります。

七品にはいくつかの組み合わせがあります。たとえば、イラン文化を紹介するファルハング財団が挙げるのは、次の七品です。

  • サブゼ:麦や豆などの芽。再生を表す。
  • サマヌー:麦の芽で作る甘い料理。豊かさを表す。
  • センジェド:グミの仲間の乾燥果実。愛を表す。
  • スィール:にんにく。薬や健康に結びつく。
  • スィーブ:りんご。美と健康を表す。
  • ソマーグ:スーマックという植物の実。日の出の色を表す。
  • セルケ:酢。年齢と忍耐を表す。

食べ物の名前をそろえながら、新しい年に願うものを食卓へ集めます。

硬貨など、別のSの品を加えたり、入れ替えたりすることもあります。また、品物に託す意味にも幅があります。たとえば酢について、スミソニアンは永続性を、メトロポリタン美術館は年齢と忍耐を挙げています。長く時を重ねる品に、何を重ねて読むかにも幅があるのです。

土色の壁を背景に、小さな器で育ち、リボンを掛けられた新年の緑の芽
新年に飾るサブゼ。麦や豆などの種を発芽させ、器で育てる。 写真:taksavar / Wikimedia Commons(CC0、縮小・JPG変換)。

芽を待つ時間も、準備のうち

緑の芽は「サブゼ」と呼ばれます。麦や大麦、レンズ豆などを発芽させて育てたもので、花を切って器に生けるのとは違い、成長を待つ時間が必要です。種だったものが根を出し、上へ伸びる変化が、新しい季節のしるしになります。

写真にあるように、芽は小さな皿や器にまとまって育ちます。一本ずつは細くても、集まると緑のかたまりになる。果物や金属の硬貨と並ぶ中で、いまも育っているものが置かれるところに、この食卓らしさがあります。

麦の芽からは「サマヌー」という甘い料理も作ります。イランの文化を扱う事典『イラニカ』には、芽を出した麦を砕き、その汁に小麦粉などを加えて、長い時間をかけて煮る作り方が記されています。

育つのを待ち、火にかけて煮る。完成した皿を並べるだけなら短い時間でも、その前に行う準備は少しずつ積み重なります。新年の食卓には、未来への願いと一緒に、すでに誰かが費やした時間も載っています。

鏡も詩集も、同じ食卓に

七つのSのほかに、鏡やろうそく、色を付けた卵、本などを添えることもあります。本はコーランの場合もあれば、ペルシャの詩人ハーフェズの詩集などの場合も。食卓に何を置くかには、家ごとの選び方が表れます。

『イラニカ』の解説も、実際にはSで始まらない品が加わり、Sの品も七つを超えることがあると指摘しています。七という名前の周りに、光や花、言葉が重なって、祝いの場が広がっています。

りんごだけを見ると果物で、酢だけを見ると調味料です。それらが芽や鏡と並ぶと、これからの一年を思うための品になります。少しずつ用意した食卓を囲み、顔を見合わせて新年を迎える。春の始まりが、家族のいる部屋の中にも置かれているのです。

この話の参考資料・写真の出典

アイキャッチ:ハフト・スィーンの飾りつけの一例。食べ物の器や鏡に加え、金魚の鉢も並ぶ。 写真:Hamed Saber / Wikimedia Commons(CC BY 2.0、縮小・JPG変換)。