すばるが戻る朝、亡き人の名を呼ぶ。マオリの新年マタリキ

青い星雲に包まれたプレアデス星団の天体写真 星・運命・魂
写真:NASA / ESA / AURA–Caltech / Palomar Observatory / Wikimedia Commons(Public domain)
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星が戻ってくる朝に、この一年で亡くなった人の名を呼ぶ。ニュージーランドの先住民マオリに伝わる新年の儀礼には、そんな時間があります。

目印になるのは「マタリキ」。日本で「すばる」と呼ばれる、プレアデス星団です。同じ星の集まりが、遠い南半球では、死者を思い、これからの暮らしを願う節目になっています。

新年は、冬の明け方から始まる

ニュージーランドでマタリキが日の出前の東の空に再び見えるのは、冬の六月から七月ごろ。北半球の日本で夏へ向かう時期に、南半球では寒い季節を迎えています。星の姿が、ひと巡りした年を知らせるのです。

ニュージーランド国立博物館テ・パパは、マタリキを「星座」ではなく「星団」と説明しています。地球からの見かけの形で結ばれた星座と違い、実際に星々が集まっているものです。望遠鏡などで捉えられる星は、伝承で数えられる七つや九つだけではありません。

一方、伝承の中でどの星を数え、どんな意味を結びつけるかは、地域によって異なります。星々には天体としての特徴に加え、その土地で受け継がれてきた名前や役割もあります。マタリキには、星を季節や暮らしの節目と結びつけてきた歴史が重なっています。

亡き人の名前を、星へ届ける

テ・パパが紹介する「ハウタプ」は、星へ聖なる食べ物を供える儀礼です。まず専門の知識を持つ人が星の明るさや見え方を観察し、新しい年の実りを占います。そのあとに、前のマタリキからの一年で亡くなった人々を思い、名前を呼びます。

ここで新年は、ただ過去を区切って先へ進む時間にはなっていません。もう集まることのできない人の名を口にし、その人がいた一年を、集まった人たちで思い返す。新年の祝いの中に、亡くなった人をしのぶ時間もあるのです。

九つの星を挙げる伝承では、「ポーフトゥカワ」という星が亡くなった人々と結びつきます。未来に向けた夢や願いを託す星は「ヒワ・イ・テ・ランギ」。過ぎた時間と、まだ来ない時間に、別々の星の名前がついているのです。

オークランドのマウント・ロスキルでマタリキを祝い凧を揚げる人々
2015年、オークランドのマウント・ロスキルで行われたマタリキの凧揚げ。本文で紹介するハウタプの儀礼とは別の催し。 写真:Ле Лой / Wikimedia Commons(CC0、縮小・JPG変換)。

地面、木、川、海から、食べ物を選ぶ

ハウタプに供える食べ物にも、星とのつながりがあります。地面で育つ作物、木々から得られる果実などの食べ物、川や湖の食べ物、海の魚介。それぞれを受け持つ星に合わせ、共同体で供物を選びます。

テ・パパの説明では、集めた食べ物を、熱した石を使う土のかまどで調理します。星が現れる前の朝に用意し、死者の名前を呼んだあとで覆いを取る。立ちのぼる湯気が空へ上がり、星々がその食べ物を受け取るとされます。儀礼は、やがて日の出とともに終わります。

魚も作物も、暮らしの中で人々を養っている食べ物です。どの場所から何を供えるかを選ぶとき、川や畑、森や海の恵みが、星の名と結びつきます。星へ食べ物を届ける儀礼には、自分たちを支える自然へのまなざしも含まれているのです。

同じ国でも、新年を知らせる星は違う

マオリのすべての共同体が、同じ形でマタリキを祝うわけではありません。七つの星を重視する伝承も、九つを挙げる伝承もあります。テ・パパは、どちらかだけを正しい数としていません。

マタリキに代わり「プアンガ」を目印にする地域もあります。プアンガは、オリオン座の明るい星リゲル。地形などによってマタリキが見えにくい場所もあり、地域の空の見え方と伝えられた知識が、新年の迎え方に関わっています。

日本からすばるを眺めても、同じ日付や時刻に、同じ季節の意味が生まれるわけではありません。それでも、あの星の集まりを目印に、大切な人を思う朝があると知ると、見慣れた空に別の奥行きが生まれます。遠い土地の新年にも、人を迎えることと、もう会えない人を思うことが一緒にあります。

この話の参考資料・写真の出典

アイキャッチ:プレアデス星団。天体写真で捉えた姿で、肉眼での見え方とは異なる。 写真:NASA, ESA, AURA/Caltech, Palomar Observatory The science team consists of: D. Soderblom and E. Nelan (STScI), F. Benedict and B. Arthur (U. Texas), and B. Jones (Lick Obs.) / Wikimedia Commons(Public domain、縮小・JPG変換)。