端末の音声で読み上げます
もっと自然な音声で聴くには
お使いのブラウザーに備わっている読み上げ機能もご利用いただけます。
iPhone・iPad:Safari
- Safariでこの記事を開きます。
- アドレス欄の左端にあるページメニューボタンをタップします。
- 「ページの読み上げを聞く」を選びます。
Android:Chrome
- Chromeでこの記事を開きます。
- 右上の「︙」メニューを開き、「このページを読み上げ」を選びます。
- 再生画面で声や速度を調整できます。再生モードが表示される場合は、「標準の再生」を選ぶと記事の全文を聴けます。
項目が表示されない場合は、Chromeの公式ヘルプで利用条件をご確認ください。
PC:Microsoft Edge
- Microsoft Edgeでこの記事を開きます。
- 記事本文の上で右クリックし、「音声で読み上げる」を選びます。
- 画面上部の「音声オプション」で、声や速度を変更できます。
Windowsでは、Ctrl+Shift+Uでも読み上げを開始・停止できます。Edgeの公式手順
メニュー名や利用できる機能は、ブラウザーのバージョンやページによって異なる場合があります。
馬が駆け、人が危険にさらされている。そのすぐそばに、光に包まれた聖母が描かれています。メキシコの奉納画には、起きた出来事と、助けを求めた相手が、一枚の中に並ぶものがあります。
こうした絵は「エクスボト」と呼ばれます。もともとは、願いがかなったときなどに、感謝や約束を果たすために捧げる品を指す言葉。その中でも、絵と文字で自分の出来事を伝える、小さな奉納画が広く知られています。
一枚に重なる、場面と祈りと文字
メキシコ文化省の解説では、絵によるエクスボトには、出来事や祈り、奇跡と受け止めたことを記す短い文章が添えられます。板や金属の薄い板などへ油絵の具で描くものがあり、手元に収まるような一枚にも、人の切実な体験が入っています。
写真にある十九世紀の奉納画では、建物に高く足場が組まれ、その間で人が落ちる姿が描かれています。上の空には、聖なる存在の小さな像。人が働く場所と、助けを求める先が、同じ画面に収められています。
何があったかを示す場面に、誰へ祈ったかを示す像、そして書かれた言葉。見る側はその間を行き来しながら、一人の人が何を恐れ、何をありがたいと感じたかをたどります。

絵を描く人、出来事を話す人
奉納する人が、必ずしも自分で絵を描くとは限りません。メキシコの国立人類学歴史研究所INAHは、依頼を受けて描く人を「レタブレロ」や「ミラグレロ」と呼ぶと紹介しています。自分の身に起きたことを、別の人の手で絵にしてもらう場合があるのです。
同研究所の博物館解説には、画家が絵を描き、依頼した信者が出来事や感謝の文章を書く場合もあったと記されています。絵と文字が一枚にあるからといって、同じ人がすべて仕上げたとは限りません。
危険だった場面を話し、描いてもらい、言葉を添えて納める。その過程を考えると、絵は出来事の記録であると同時に、誰かへ話を伝えるためのものでもあります。自分の中にあった記憶が、人に見てもらえる形へ移されていくのです。
家具や服にも、暮らしが残る
絵の主役に目が向いた後で、その周りを見ると、室内の家具や人の服、働く場所にも気づきます。先ほどの足場の絵なら、床の高さや細い柱、建物の中で働く人々の位置が、落下の場面を取り囲んでいます。
INAHのアグアスカリエンテスの博物館解説は、奉納画から、地域の事故や病、日常の困り事を知ることができると述べています。特別な身分の人だけでなく、暮らしの途中で危険に直面した人の姿が残されています。
描かれた奇跡は、奉納した人がその経験をどう受け止めたかを伝えます。絵そのものから、原因や経過のすべてが分かるわけではありません。それでも、どの瞬間を残し、誰へ感謝を向けたかは、その人の経験の語り方として読み取れます。
祈りの場から、美術館へ
メキシコでは、スペイン人の到来とともにキリスト教の奉納の習わしが伝わり、十九世紀には絵によるエクスボトが広まったと説明されています。イエス、聖母マリア、聖人たちへ、受けた助けのお礼を伝えるものでした。
その後、フリーダ・カーロやディエゴ・リベラといった画家たちも奉納画を集めました。現在は、美術館の展示や資料としても出会えます。メキシコのサン・カルロス国立美術館は、エクスボトを、信仰と日々の生活が結びついた歴史資料として紹介しています。
祈りのために納められた絵を、後の時代の人が見る。当時はありふれていた部屋や道、仕事の様子が、いまは暮らしを知る手がかりになっています。
画面の中の人にとっては、忘れられない出来事だったのでしょう。絵と文字を残す行為には、助かったことを自分だけで終わらせず、感謝する相手へ届けたいという思いがありました。小さな一枚は、その日が過ぎた後も、人の話を伝え続けています。
この話の参考資料・写真の出典
アイキャッチ:グアダルーペ聖母への奉納画。馬と人の場面のそばに、聖母の姿が描かれている。作者不詳。 画像:作者不詳 / Wikimedia Commons(Public domain、縮小・JPG変換)。


