祈りは風に運ばれる。チベットの五色の旗が山道にある理由

ヒマラヤの山道で風になびく色とりどりの祈祷旗を描いた風景 願いと引き寄せ
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山道に張られた色とりどりの布が、風に引かれて音を立てる。チベットやヒマラヤの写真で見かける、あの旗には何が書かれているのだろう。飾りでも、登山の目印でもない。祈りの言葉や図像を刷った「祈祷旗」だ。

旗は山の峠や寺院のそば、高い場所に掛けられる。チベットの宗教美術を紹介するルービン美術館によると、印刷に木版が使われ、布には真言と呼ばれる祈りの句や図像が刷られる。旗を掛けた人が読み上げ続ける代わりに、風が布を揺らす。祈りが風に乗って広がると考えられてきた。

声を出さなくても、祈りは続く

手で回すと内側に収めた祈りの言葉が働くとされる「マニ車」も、この地域に伝わる。旗には手で回す仕組みがない。動かすのは、誰のものでもない風だ。山に人がいない日も、布が揺れるたびに祈りが運ばれていく。その発想が、景色を少し違って見せる。

ここでいう祈りは、掛けた人一人の願いだけを指すわけではない。美術館の説明では、風に乗った真言が周囲を鎮め、すべての人に幸運をもたらすと信じられている。自分のために結んだつもりの布が、通り過ぎる誰かにも向けられている。

五色の布に、空や水や大地を重ねる

青、白、赤、緑、黄。ルービン美術館の教材では、青は空間、白は空気、赤は火、緑は水、黄は大地を表すと説明している。五色の旗は、祈りの言葉だけでなく、世界を形づくるものも色で示しているのだ。

チベット高原に実際に掛けられた数多くの祈祷旗
チベット高原に掛けられた祈祷旗。 写真:Tenace10 / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0。表示用に縮小)

写真に写る実際の旗は、整然と並ぶというより、幾重にも重なって風に揉まれている。布の色や形はまちまちで、風雨にもさらされる。それでも山道を彩るのは、一度掲げた祈りをそこに置き続けたいからなのだろう。

風のない日も、そこにある

風がやんだ日も、旗は空の下に残る。次に吹く風へ祈りを預けるように、掛けた人が去ったあともそこにある。山道で目に入る色とりどりの布を、誰かが自分以外の人のためにも結んだと思うと、その下を通る時間も少し違って感じられる。

この話の参考資料

冒頭画像は題材から着想した再現画です。本文の実物写真の出典は画像の下に記しました。