好きだと言う代わりに、木を彫る。ウェールズのラブスプーン

細かな模様が彫られた木製のラブスプーンを描いた情景 恋とご縁
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好きだと言う代わりに、木のスプーンを彫る。ウェールズに伝わる「ラブスプーン」は、恋人や大切な人に贈られてきた飾りの匙です。いま見かける品は飾りとしてのものが多く、柄に彫り込んだ模様が気持ちを伝えます。

二つの心をつなぐ鎖、守りたい家を思わせる形、終わりのない結び目。写真の一本にも、匙の柄とは思えないほど細かな彫刻があります。模様の意味は時代や品ごとに違い、何を込めたかを一つの辞書で決めることはできません。それでも、木片に費やした時間は残ります。

言葉にする代わりに、木へ刻む

ウェールズ国立博物館には、求愛の贈り物として作られた古いスプーンが収められています。口では言えない言葉を、一日では彫り上がらない形にする。受け取った人は、何度も手でなぞったかもしれません。

同館が所蔵する、制作年の分かる古い品は一六六七年のものです。冬の長い農村では、暮らしに使うスプーンを彫ること自体が身近な手仕事でした。初期のラブスプーンには実際に食事に使うものもあり、時代とともに彫刻が増え、飾るための品へ変わっていったそうです。

実際のウェールズの木彫りラブスプーン
木彫りのウェールズのラブスプーン。 写真:Kmtextor / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0。表示用に縮小)

細いところが折れないように、少しずつ刃を進める。ラブスプーンを見ていると、贈るまでに何度も木片を持ち直し、形を確かめた手を想像したくなります。自分の手を動かした跡が、そのまま贈り物になるのです。

模様にも、いくつかの読み方があります。たとえば鎖は相手への誠実さ、鍵と鍵穴は心を開くこと、家の形は共に暮らす願いを表すとされます。ただ、贈り主が本当に何を伝えたかったかは、彫刻だけでは言い切れません。一本ごとに違うからこそ、柄をじっくり見たくなります。

模様より目を引くもの

いまでは結婚祝いや記念品としても親しまれています。昔と同じ意味をそのまま背負っているわけではなくても、一本の匙の柄に、誰かのために使った長い時間が見える。その静かな重さが、ラブスプーンの魅力なのだと思います。

この話の参考資料

冒頭画像は題材から着想したイメージです。本文の実物写真の出典は画像の下に記しました。