新年の福を、箸で高く持ち上げる。シンガポールの旧正月料理「魚生」

旧正月の食卓で数人が箸を伸ばし、色鮮やかな魚生を高く混ぜる場面 お金と豊かさ
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新年の料理を、箸で高く持ち上げる。シンガポールの旧正月に食べられる「魚生(ユーシェン)」は、魚の薄切りや野菜を盛った色鮮やかな一皿だ。食べる前に皆で囲み、声を合わせて具を混ぜる。皿からはみ出しそうなほど勢いよく上げる姿には、初めて見る人も驚く。

この一斉に混ぜる習わしを「ローヘイ」と呼ぶ。シンガポールの文化遺産を紹介する公的サイトでは、具材を加えるときに縁起のよい言葉を唱え、箸で高く持ち上げながら新しい一年の豊かさを願うと説明している。食事が始まる前から、テーブルはすでに祝いの場になる。

もとは魚やキュウリ、大根などを合わせた、もっと簡素な料理だったという。現在よく見る色とりどりの魚生が広まったのは二十世紀半ば。シンガポール国家遺産局は、今の形を作った人物について複数の説を紹介している。古くからの正月料理に、新しい祝い方が重なったのだ。

高く上げるほど、願いも高く

一人で混ぜるには大きすぎる皿に、何膳もの箸が入る。具を落とさないようにという慎重さより、同じ瞬間に手を動かす楽しさが勝つ。願いの言葉も、ひそかにつぶやくのではなく、周りに聞こえる声で言う。

「魚」と「余り」が同じ音になるなど、料理の名や具にも縁起を重ねる。言葉遊びが、料理を単なるごちそうから新年の儀式へ変える。写真は、実際に卓を囲んで混ぜたあとの魚生。皿の周りに飛んだ具からも、にぎやかさが伝わってくる。

具を足すたびに、願いの言葉も変わる。魚をのせるときは一年の豊かさを、ニンジンを加えるときは幸運を、金色のピーナッツを散らすときは家に富が満ちることを願う。最後に皆の箸が入るまで、一皿は少しずつ新年の約束を増やしていく。

シンガポールの旧正月に実際に混ぜられた魚生の大皿
皆で混ぜたあとの魚生。 写真:ProjectManhattan / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0。表示用に縮小)

こぼれても、笑える食卓

豊かさを願うと聞くと、厳かな作法を想像するかもしれない。けれど、この料理は皆の箸がぶつかり、具が散らばり、笑い声が上がるところまで含めて祝祭らしい。

新しい一年の運を誰か一人が占うのではない。親しい人も初めて同席した人も同じ皿に手を伸ばし、声を重ねる。願いは高く掲げられ、最後には皆の食卓へ戻ってくる。

この話の参考資料

冒頭画像は題材から着想した再現画です。本文の実物写真の出典は画像の下に記しました。