道を通したい。でも、その木は切れない。アイルランドの妖精の木

霧の山道のそばで白い花を咲かせる古いサンザシの木 世界の不思議
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新しい道を通す先に、一本のサンザシが立っていた。切れば工事は進む。ところが、作業員たちは木に手を出そうとしなかった。妖精の木だから、触れれば災いが起きるというのだ。アイルランドに残る「フェアリー・ツリー」の話である。

この話は、アイルランドの民俗資料を集めた「学校のコレクション」に、ドニゴール県で語られた伝承として残る。工事の責任者が木を取り除くよう命じても、作業員たちは次々に断った。だが、一人だけ、その怖れを信じない男がいた。

それでも、木を抜いた男

男の名はジム・ガレン。自分で木を取り除けば、怖がる必要などないと証明できる。そう考えた彼は刃物を取りに行き、作業を始めた。根元の石をどけると、白いネズミが何匹も現れた。驚きながらも手は止めない。ついに木を根ごと抜くと、羽のない奇妙な大きな鳥が顔の前へ飛び出し、消えてしまったという。

アイルランドで実際に咲く白い花のサンザシ
アイルランドのサンザシ。伝承に登場する木そのものではない。 写真:Grandpa David / Wikimedia Commons(CC BY 3.0。表示用に縮小)

木を戻すと、牛の乳も戻った

話は、木を抜いたところで終わらない。その後、ガレンの飼う牛たちが、突然乳を出さなくなった。病気には見えないのに、乳が出ない。困り果てた彼は、抜いた木を元の場所の近くへ植え直した。すると翌朝、牛たちはたっぷり乳を出し、彼は胸をなで下ろしたと伝えられている。

道を造る仕事では、木は取り除くべき障害物だった。けれど、この物語の中で、抜いた木は牛の乳とつながり、男は自分の手で戻しに行く。周りの忠告を笑った人が、最後には誰よりも木を気にかける。その変わりように、フェアリー・ツリーの話の怖さとおかしみがある。

この話の参考資料

冒頭画像は題材から着想した再現画です。本文の実物写真の出典は画像の下に記しました。