海底に沈んだ歯車は、空を計算していた。アンティキティラの機械

アテネの国立考古学博物館に展示された、腐食した歯車が見えるアンティキティラの機械の断片 世界の不思議
写真:Joyofmuseums / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)
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緑がかった青銅の塊に、歯車の丸い輪郭が残っています。割れ、腐食し、もとの姿も分かりにくい。それでも、歯の並びを見つけると、かつて中で何かが動いていたことが伝わってきます。

これは「アンティキティラの機械」。ギリシャのアンティキティラ島沖の沈没船から、二十世紀初めに引き揚げられた、古代の天文計算機です。人が動かす歯車で、太陽や月などの周期を表した装置だと考えられています。海底から出てきたのは、空の動きを手元で追うための仕組みでした。

歯車で、太陽と月の周期を結ぶ

ギリシャ国立考古学博物館は、この機械が紀元前二世紀の知識と技術で作り得たものだと説明しています。すでに知られていた天文の知識、数学、金属を加工する技術が、一つの小さな装置で結びついていました。

米国機械学会ASMEによると、機械には暦や天体に関する表示があり、日食や月食の予測、競技祭の日程を示す機能などがあったと考えられています。空に次に何が起こるかと、人々が使う暦の両方に関わっていたのです。

歯車は、大きさや歯の数の組み合わせによって、隣の歯車へ回転を伝える速さが変わります。その関係をつなげれば、一つを回したときに、別の部分を違う周期で動かせます。天体ごとの動きの違いを、金属の部品同士の関係に置き換える発想です。

月の形が変わり、季節が巡る。空で繰り返される出来事を調べることと、手の中で動く道具を作ることが、この機械の中で出会いました。細かな歯を刻む仕事の後ろには、長く空を見てきた人々の知識があります。

透明な枠の中で金属の歯車が重なる、アンティキティラの機械の復元模型
アンティキティラの機械の復元模型の一例。失われた構造を補った展示で、本文で紹介する二〇二一年の研究案とは別の復元。 写真:Gts-tg / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、縮小・JPG変換)。

壊さずに、中の文字を読む

残っているのは、完全な機械ではありません。二〇二一年の研究論文によると、断片は八十二点に分かれ、もとの装置の約三分の一が現存するとされます。青銅の歯車も三十枚が残っています。

研究を進めた手段の一つが、X線CTです。さまざまな向きから撮ったX線の情報で、内部を断面のように調べる方法で、表面から見えない歯車の構造や、重なりの中に隠れた文字を読む助けになりました。

二〇〇五年の調査では、細かなX線CTなどが用いられ、装置の裏側の構造や多くの文字の研究が進みました。金属を割って開ければ失われるかもしれない情報へ、壊さずに近づく方法です。

文字は、部品の名前を知るだけのものでもありません。何をどう表示したかという説明が、歯車の配置を考える手がかりになります。部品の形から考えた案が、書かれた内容と合うか。研究者は、機械と文章を突き合わせながら、失われた動きを探っています。

復元されたのは、古代の宇宙

二〇二一年、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究チームは、機械の前面で天体をどう表示したかについて、新しい復元モデルを発表しました。太陽と月に加え、水星、金星、火星、木星、土星という、古代に知られていた五つの惑星の動きを、歯車で表す案です。

博物館で見る復元模型にも、失われた部分を研究から補ったところがあります。写真にある透明な模型は、歯車が奥行きを持って重なる様子を見せています。腐食した実物の断片と、動きを考えるための模型。それぞれを見ると、残っているものと、研究で組み立てたものの違いが分かります。

この復元案では地球を中心に置き、その周りに月や太陽、惑星を配置しています。表そうとしたのは、地上から眺めた空の動きです。惑星は星々の間を進み、ときには逆向きに動くように見える。その複雑な動きまで、歯車を組み合わせて再現しようとしていたのです。

見つかった断片が少なくても、問いまで小さくなるわけではありません。一本の軸をどこへ通し、どの歯車とつなぐのか。その具体的な問いの先に、二千年以上前の人が、遠い空を目の前で動かそうとした仕事が見えてきます。

この話の参考資料・写真の出典

アイキャッチ:ギリシャ国立考古学博物館に残る機械の断片。丸い歯車の形が見える。 写真:Joyofmuseums / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、縮小・JPG変換)。