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朝は、飲み水を先にくむ。食べ物や食器を洗うのは、そのあと。中国・安徽省(あんきしょう)の宏村(こうそん、中国語ではホンツン)には、村の水路を時間で使い分ける決まりがあった。
2018年に発表された現地調査論文に記録されているのは、午前8時までは飲み水や洗顔などを優先し、それから食べ物や食器を洗い、衣類の洗濯は午前10時を過ぎるまで待つ、という順番だ。
家の外を流れる水は、その家だけのものではない。同じ流れの先に、別の家がある。この村で水を使う決まりを知ると、白壁の家々や池の景色の中に、暮らす人どうしの関係が見えてくる。
山と水の間の村づくり
宏村は、中国東部、安徽省南部にある古い集落だ。西逓(せいてい)とともに、世界遺産にも登録されている。UNESCO(ユネスコ)は、家々と水のシステムが一体となった集落の姿を、その特徴として紹介している。
村の北には山があり、西側には川が流れる。畔柳昭雄(くろやなぎ あきお)による現地調査論文は、この配置を、風水で理想とされる「背山臨水(はいざんりんすい)」、山を背にして水に向かう形と結びつけている。
ただ、水のそばは、穏やかな場所であるばかりでもない。村は火災や洪水も経験してきた。論文がたどる歴史では、災害に備える村づくりの中に、風水の考え方が取り入れられていったという。
十五世紀初めには、風水師に集落の計画を依頼し、川から水を引き、中心部の池や村の水路を整える工事が進められた。火災の際に使う水を確保することも、その大きな目的にあった。
家から家へめぐる水
村へ引かれた水は、家々の間を通る水路をめぐる。中心部には「月沼(げっしょう)」という池があり、南には大きな「南湖(なんこ)」がある。水路は、家の庭に設けられた養魚池にも水を送っている。
流れを生むのは、取水口から南湖までの土地の高低差だ。細い水路のそばには、水をくみやすいように石を渡した場所もある。風水から考えられた村の配置は、水を運び、手を伸ばして使うための形にもなっていた。
池に映る家並みの外側で、細い水路は家の前を通り、別の家へ向かっている。ある家が飲み水をくんだあと、次の家も同じ流れへ器を出す。朝のうちに洗濯を待つという決まりは、そのつながりを使い続けるためにあった。
下流に残す朝の水
上流の家が朝から汚れ物を洗えば、その水は下流にも届く。家の前だけで考えると、先に水へ手を伸ばした人が、その後の水を変えてしまう。飲み水を先に確保する時間は、流れを一緒に使うための決まりだった。
論文には、夜10時以降は水路の使用をやめ、翌日の飲用に備える決まりも記されている。水の使い方は、朝から夜まで、人々の生活の時間にも関わっていた。

もっとも、この決まりが今も一様に守られていると考えることはできない。2014年と2016年に行われた調査では、水道の普及後も水路の水を使う人がいる一方、時間の決まりが守られなくなったことや、流れの弱い場所の汚れも報告されている。
水路が残っていても、使う順番が守られるとは限らない。洗い物を始めてよい時間まで待つことが、下流の飲み水を守ることにつながっていた。家や池の配置を考える風水に、使う人どうしの順番が重なって、この水路は暮らしの中にあった。
この記事の参考資料
- 畔柳昭雄「中国安徽省宏村の水系システムが生み出す集落空間の構成に関する研究」『日本建築学会計画系論文集』83巻745号、2018年、417–426頁
- UNESCO世界遺産センター「Ancient Villages in Southern Anhui – Xidi and Hongcun」
冒頭画像:夕暮れの宏村・月沼。池のまわりに白壁の家々が並ぶ。 写真・資料:Zhangzhugang / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、縮小して掲載)


