新年の客は、角と牙のある顔。ブルガリアの村を巡るスロヴァ

白い毛と大きな歯、角を備えたペルニクの仮面祭の仮面 魔術と浄化
写真:VictoriaTuong / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)
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大きな角、むき出しの歯、毛に覆われた顔。ブルガリアの仮面には、動物のようでも、人のようでもある姿があります。身につけるのは、村の外から来た怪物ではありません。新年の健康や豊かさを願い、家々を訪ねる人たちです。

ブルガリア西部、ペルニク地方に伝わる「スロヴァ」は、旧暦の新年を祝う祭り。怖い顔をした客がやって来る日を、家の人は食事や贈り物を用意して待ちます。

一月十三日の火、十四日の訪問

スロヴァは、現在の暦では一月十三日と十四日に行われます。ここでいう旧暦は、日本の旧正月で使う太陰太陽暦とは異なる、古い方式のユリウス暦です。その暦の新年を祝うため、この日付に当たります。

ユネスコの紹介では、十三日の夜、仮面や衣装を着けた一団が村の中心に集まり、火をたきます。見物する人とやり取りをしながら祝い、翌朝には家々を巡ります。夜の集まりから、朝の訪問へと続く祭りです。

一団は「スルヴァカリ」と呼ばれます。仮面をかぶる人だけでなく、指導役や新郎新婦、司祭、熊など、役を演じる人も加わります。村を歩く行列の中に、小さな芝居の登場人物たちがいるのです。

怖い顔には、音も伴う

仮面に使われるのは、毛皮、角、羽など。ペルニク市が公開する資料には、羊やヤギの皮、家禽の羽、トウモロコシの葉など、土地の暮らしにある材料が挙げられています。

牙を見せる口に、頭の上へ伸びる角。写真でも、日頃の顔をすっかり隠す大きさが分かります。衣装にも毛皮や細く切った布が使われ、人の輪郭を別のものへ変えます。

さらに、腰には鈴を付けます。歩き、踊るたびに鳴る鈴は、仮面の姿とともに、悪いものを追い払い、新しい年に健康や実りを招く願いに結びつけられています。見た目だけで完結する扮装ではなく、体を動かして音を生むところまでが祭りの姿です。

夜のペルニクの仮面祭で、明かりに照らされた通りを進む一団
二〇二四年のペルニクの仮面祭。本文の家々を訪ねる儀礼とは異なる、街での行進の場面。 写真:Edwardvenev / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、縮小・JPG変換)。

熊も婚礼も、家の庭へ

ブルガリア科学院の民族学者ミレナ・リュベノヴァは、村々の訪問で、司祭役が新郎新婦役の婚礼を執り行い、熊役が健康を願って人にじゃれつくような演技をすると記しています。

ここでの婚礼は、祭りの中で演じるものです。一団が家の庭へ入り、祝いの場面を繰り返します。新しい年に、家族が健やかで、暮らしが豊かであるように。そうした願いが、人と人の間で行う芝居になっています。

迎える家からは、食べ物や飲み物、金銭などが渡されます。ユネスコによると、集めた贈り物を分けたり、お金を困っている人や子どもたちのために寄付したりすることもあるそうです。訪問のときに交わしたものが、祝いの後にも人の間を巡ります。

村の祭りから、街の仮面祭へ

ペルニク市には、各地の仮面の一団が集まる国際仮面祭「スルヴァ」もあります。村で受け継がれた習わしを背景に、一九六六年に始まった催しです。掲載写真は、この街の仮面祭で撮影されたものです。

家ごとの訪問と、大勢が見る街の行進では、見る側との距離も変わります。街の催しにはブルガリアのほかの地域や外国からも参加者が集まり、土地ごとの姿を見られます。一方、村のスロヴァでは、顔見知りの家を巡って、互いの一年を祝います。

仮面を用意するのも、当日だけの仕事ではありません。家族で材料を集め、大人が子どもに作り方を伝えます。現在は男性に加え、女性や子どもも一団に参加していると紹介されています。

歯や角の向こうにいるのは、同じ土地で暮らし、準備を重ねてきた人たち。怖い顔の客を迎える玄関の内側には、その人たちへ差し出す食事があります。仮面が家を回る一日は、村の人々が、お互いの無事を願う日でもあるのです。

この話の参考資料・写真の出典

アイキャッチ:ペルニク市の仮面祭で撮影された仮面。村々の新年の習わしを背景とする催し。 写真:VictoriaTuong / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、縮小・JPG変換)。