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細い麦わらが結ばれて、天井から立体の形が吊り下がっています。ひし形の中に、さらに小さなひし形。中身は空洞なのに、少し見る位置を変えると、線が重なったりほどけたりして、形が変わって見えます。
フィンランドの「ヒンメリ」は、こうした麦わら細工の飾りです。クリスマスの手仕事として知られますが、かつては翌年の収穫を願い、食卓の上へ吊るしたといいます。人が食べる場所の上に、畑から来た茎が浮かんでいたのです。
冬から夏まで、食卓の上に
フィンランド外務省などが運営するthisisFINLANDは、昔のヒンメリが、クリスマスから夏至祭のころまで飾られたと紹介しています。冬の祝いのために出したものが、新しい作物の育つ季節まで、家の中に留まっていました。
「ヒンメリ」という名は、スウェーデン語やドイツ語で空、天を意味する言葉に由来します。身近な食卓の上と、遠い空。その両方を結ぶような名前ですが、作るための材料は、畑で手に入る素朴な麦わらです。
発祥を一つの時代や場所に決めるのは難しく、トゥルク大学に提出されたヒンメリの研究も、由来について記録が乏しいと述べています。それでも、細いわらをつなぐ手仕事は、今の作り手へと受け継がれています。
空洞をつなぐ、小さな骨組み
一つの形をよく見ると、短く切った管を、頂点でつないでいることが分かります。細い線だけで囲まれた立体なので、奥側の線も、その向こうの壁も見える。内と外が透けて重なるところに、この飾りの面白さがあります。
同じような形をいくつも組み合わせれば、大きなまとまりになります。小さな部品の角度が少しずつ違い、隣り合うもの同士が重なって見えます。写真の中でも、一本のわらを追ううちに、目が別の立体へ移っていきます。
吊るす紐と、細い材料。形を支えるのに必要な部分が、そのまま見どころになっています。中へ物を詰めることも、面を張って覆うこともせずに、一つの飾りが成り立つのです。

麦を育てるところから作る人
ヒンメリ作家のエイヤ・コスキは、フィンランド西部の農場で、自分の畑の有機栽培のライ麦を使って作品を作っています。thisisFINLANDの取材では、茎を自分で選び、切って使う仕事が紹介されています。
ライ麦は、長く丈夫な茎が得られる材料。完成した幾何学の形の前には、植物を育て、使える茎を見分ける時間があります。線の長さをそろえる手仕事が、そのまま畑へつながっているのです。
現在は、紙や木材、さまざまな管を使ったヒンメリも作られています。掲載した制作途中の写真では、金属の管と紐を使った形が見られます。麦わらの自然な色とは印象が変わりますが、中を透かして見せる骨組みは共通しています。
同じ形が、街へ出ていく
ヘルシンキには、アンテロ・トイッカが制作した、赤い鋼材の彫刻《ヒンメリ》があります。ヘルシンキ市立美術館HAMの解説によると、麦わら飾りの基本的な形をもとにした作品です。
この彫刻は、街のさまざまな場所へ移して展示されました。同じ形でも、置く場所や周囲の空間によって見え方が変わるという、作家の着想がありました。天井から吊るす小さな飾りが、人の歩く街の大きさへ広がったのです。
家の中でも、ヒンメリの後ろが明るい窓か、落ち着いた壁かで、線の見え方は変わります。影が壁に落ちれば、飾りのそばに、もう一つの模様ができる。小さな骨組みに、光と影が新しい模様を加えてくれます。
かつて食卓の上で、次の収穫を待っていた麦わら。いまもその細い線は、見る人のいる場所や光を取り込みながら、空っぽの中にいくつもの形を見せています。
この話の参考資料・写真の出典
アイキャッチ:小さな立体をいくつも組み合わせた、麦わらのヒンメリ。 写真:Antkyr at Finnish Wikipedia / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0、縮小・JPG変換)。


