神様に、新しい布を着せる。遠野のオシラサマと娘と馬の物語

遠野市立博物館に展示された、色鮮やかな布をまとったオシラサマ 神秘のしるし
写真:Fred Cherrygarden / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、縮小・JPG変換)
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小さな顔の下に、赤や青、花柄の布が重なっている。人の顔もあれば、馬の顔もある。岩手県遠野市の博物館に並ぶオシラサマは、よそゆきの衣装を着せてもらった人形のようにも見える。けれど、この姿には、家の中で神様を世話してきた人々の時間が含まれている。

オシラサマは、東北地方を中心にまつられてきた神様だ。桑の木などで作った、二体一対のご神体がよく知られる。家を守る神、そして蚕を育てて繭を得る養蚕の神として信仰され、新しい布を着せる習わしも受け継がれてきた。

顔より先に、布の重なりが目に入る

神様の姿を彫った木の棒に、衣をかぶせる。その布は「オセンダク」と呼ばれる。遠野市立博物館の紹介では、新しい布を着せ、豊作や家内安全を願う風習が伝えられている。神様は一度作って置いたら終わり、という存在ではなかった。

写真を見ると、布の色も模様もそろっていない。顔がよく見えるものも、ほとんど隠れてしまったものもある。私は、ここでは彫刻の細かさよりも、布を選び、かぶせた手のほうを想像してしまう。今日までまつるとは、こういう小さな世話を続けることなのだろう。

ただし、オシラサマの姿やまつり方は、すべての家で同じだったわけではない。遠野伝承園では蚕、農業、馬、そして「お知らせ」に関わる神として紹介されている。一つの名の中に、暮らしのいくつもの願いが寄り添っている。

娘と馬の、悲しい物語

その穏やかに見える姿の奥に、激しい物語がある。柳田国男の『遠野物語』第六十九話では、ある百姓の娘が、家で飼っていた馬を愛し、夫婦になったと語られる。父はそれを知り、娘に知らせず馬を殺してしまう。

娘は桑の木の下で馬にすがって泣く。父がさらに馬の首を落とすと、娘はその首に乗ったまま天へ昇った。物語は、ここからオシラサマという神が生まれたと続き、馬をつるした桑の枝から神の像を作ったと伝えている。

幸せな恋が、そのまま祝福される話ではない。人と馬を引き離そうとする父がおり、地上から去ってしまう娘がいる。現在の遠野伝承園も、オシラサマを娘と馬の恋物語で知られる神として紹介している。

ここで気になるのは、失われた二人が、あとから人の暮らしを守る神としてまつられることだ。悲しい結末をなかったことにせず、木の姿にして家に迎え、衣を着せる。その行為には、取り戻せないものと、なお一緒に暮らそうとする気持ちが見える。

木造のお堂の壁際に色とりどりのオシラサマが並ぶ遠野伝承園
遠野伝承園のオシラサマの展示。布の色や柄にも、一体ずつ違う表情がある。 写真:TANAKA Juuyoh (田中十洋) / Wikimedia Commons(CC BY 2.0、縮小・JPG変換)。

桑の木と、家の暮らしをつなぐ

物語に桑が出てくるのも、養蚕の神として知られるオシラサマらしい。蚕が食べるのは桑の葉である。娘と馬の話の中の木が、絹を生み、家の暮らしを支える木とも重なる。物語と日々の仕事が、同じ植物を通じてつながっている。

遠野の伝承園には、人と馬が一つの建物で暮らした文化を伝える南部曲り家が残る。曲り家とは、住まいと馬屋を曲がった形につないだ農家の建物だ。その奥の御蚕神堂(おしらどう)には、多くのオシラサマが展示され、願いを込めて布を着せる体験もできる。

博物館の展示と、代々の家での信仰は、同じ場面ではない。それでも、写真の布の重なりを見てから、人と馬が近くで暮らした家を思い浮かべると、娘の物語も遠い空想だけではなくなる。家の仕事や動物との関わりを背負った話として、近づいてくる。

新しい布を一枚加えるたび、まつる側も神様に何かを返しているように見える。家を守ってもらいながら、家の人も神様の衣を新しくする。そのやり取りが、オシラサマの小さな顔の下に重なっている。

この話の参考資料・写真の出典

冒頭の写真:遠野市立博物館に展示されたオシラサマ。 写真:Fred Cherrygarden / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、縮小・JPG変換)。