エジプトの神殿に、見覚えのある星座がいる。デンデラの天井

デンデラのハトホル神殿で、浮彫のある石壁と柱の間に光が入る大広間 星・運命・魂
写真:Hamerani / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)
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古代エジプトの神殿から運ばれた石の板に、見覚えのある生き物がいます。牡牛、獅子、蠍。円い空の図に刻まれているのは、今の星占いでもおなじみの、黄道十二宮の姿です。

ルーヴル美術館にある「デンデラの黄道帯図」は、もともとエジプトのハトホル神殿の天井でした。動物の頭を持つ神々と、私たちも名前を知る星座が同じ空にいる。そこには、異なる土地の知識が出会った時代の宇宙が刻まれています。

円い空を、外側から神々が支える

実物は、縦横とも約2.5メートルある砂岩の浮彫です。紙の星図を思い浮かべてから寸法を知ると、その大きさに少し驚きます。小さな持ち歩き用の占い道具ではなく、部屋を覆う建築の一部でした。

外側には、両腕を上げた四人の女性と、膝をついた八体の鷹の頭の神が並んでいます。ルーヴルの所蔵品解説は、これらを空を支える姿として記載しています。その内側に、星座や時間を区切るしるしが配置されています。

星の図は、周りの神々から切り離されていません。空が頭上にあり、神々がそれを支えている。そのような世界の形まで、一枚の天井に入っているのです。

ルーヴル美術館にあるデンデラの円い黄道帯図と周囲の神々の浮彫
ルーヴル美術館に収蔵されたデンデラの黄道帯図。もとは神殿の天井の一部だった。 写真:Shonagon / Wikimedia Commons(CC0、縮小・JPG変換)。

なぜエジプトに、黄道十二宮があるのか

黄道とは、地球から見た太陽が、一年かけて空を進んでいく道筋です。その道の周囲を十二に分けて捉える考えが、黄道十二宮の土台になっています。デンデラには、その十二宮に加え、当時知られていた五つの惑星も表されています。

エジプトの神殿を研究するテュービンゲン大学の解説では、黄道十二宮はバビロニアの天文学に由来し、クレオパトラ七世が治めた王朝、プトレマイオス朝の時代にエジプトへ登場したとされます。古代エジプトの図像に、外から伝わった空の見方が加わっていたのです。

エジプトで受け継がれた神々の姿と、地中海世界などを通じて伝わった天文学。その両方が、一枚の天井の浮彫に表されています。

クレオパトラの時代に刻まれた空

ルーヴルの現在の作品データベースは、この浮彫を紀元前50年ごろに位置づけています。クレオパトラ七世の時代です。「古代エジプト」という言葉からピラミッド建設期を連想すると、かなり後の時代であることを見落としてしまいます。

発見された場所も、神殿の大広間そのものではありません。ハトホル神殿の屋上にあった、オシリス神の礼拝室の天井です。オシリスは死と再生に関わる神。その空が、どの神のための部屋に置かれていたかを知ると、星座だけを抜き出した図とは違って見えます。

ルーヴルの別の解説では、図に日食と月食も表されているとされています。そこに刻まれたのは、星の形ばかりではありません。空で起こる現象を、神々の世界とともに捉えようとした表現でもあります。

神殿の天井を飾る図には、空を観察する知識と、神々への信仰がともに表れています。星座の形だけでなく、図が置かれた部屋や周囲の神々にも目を向けると、当時の人々が思い描いた空へ近づけます。

見上げる天井が、博物館の作品になるまで

この浮彫は、1821年に神殿の天井から取り外され、フランスへ運ばれました。翌1822年にはフランス王ルイ18世が購入しています。現在見ているのは、神殿から独立して作られた別の星図ではなく、建築から切り出されたものです。

ルーヴルで星座の形を追うときには、これがかつて人の頭上にあったことも思い出したくなります。神殿で天井を見上げるときと、美術館で浮彫の細部を見るときとでは、同じ図も違って見えるでしょう。

牡牛や蠍を見つけるところから入って、円の外側の神々へ目を移す。次に、もとの部屋の天井を想像する。見覚えのある星座を手がかりにした先で、私たちの星占いとは違う、神殿全体の空が姿を現します。

この話の参考資料・写真の出典

アイキャッチ:デンデラのハトホル神殿の列柱室。黄道帯図があったのは、この大広間ではなく屋上の礼拝室。 写真:Hamerani / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、縮小・JPG変換)。