盗まれた手袋を返して。ローマ時代の神に届いた激しい訴え

ローマ時代の神殿跡に置かれた薄い鉛の板を描いた情景 魔術と浄化
もっと自然な音声で聴くには

お使いのブラウザーに備わっている読み上げ機能もご利用いただけます。

iPhone・iPad:Safari

  1. Safariでこの記事を開きます。
  2. アドレス欄の左端にあるページメニューボタンをタップします。
  3. 「ページの読み上げを聞く」を選びます。

Safariの公式手順

Android:Chrome

  1. Chromeでこの記事を開きます。
  2. 右上の「︙」メニューを開き、「このページを読み上げ」を選びます。
  3. 再生画面で声や速度を調整できます。再生モードが表示される場合は、「標準の再生」を選ぶと記事の全文を聴けます。

項目が表示されない場合は、Chromeの公式ヘルプで利用条件をご確認ください。

PC:Microsoft Edge

  1. Microsoft Edgeでこの記事を開きます。
  2. 記事本文の上で右クリックし、「音声で読み上げる」を選びます。
  3. 画面上部の「音声オプション」で、声や速度を変更できます。

Windowsでは、Ctrl+Shift+Uでも読み上げを開始・停止できます。Edgeの公式手順

メニュー名や利用できる機能は、ブラウザーのバージョンやページによって異なる場合があります。

「盗まれた手袋を取り返してください」。古代の神への願いが、そんな身近な怒りから始まることがあります。ローマ時代のブリテンで使われた薄い鉛板には、盗んだ相手を神が罰するようにと書かれたものが残っています。「呪詛板」と呼ばれる小さな板です。

大英博物館が所蔵する一枚は、イングランドのグロスターシャー州ウーリーで見つかりました。失ったのは手袋。書き手は商売や戦争の勝利ではなく、見知らぬ盗人への腹立ちを、神メルクリウスに訴えています。

小さな鉛板に、大きな怒り

この板は文を書いた面を内側にして何度も折られていました。博物館の解説では、盗人から血や健康を奪うよう求める激しい言葉も読めます。今なら手袋のためにそこまで、と驚くかもしれません。けれど、持ち物を失ったうえに相手もわからない無力さは、時代が違っても想像できます。

板の大きさは手のひらほど。内側に七行、外側に一行の文字があり、書いたあと五回折られたと大英博物館は記しています。人に読ませるための掲示ではなく、神に渡す訴えです。薄い鉛の中へ怒りを折り込んでしまう、その手順まで実物に残っています。

イングランドのバースで見つかったローマ時代の呪詛板
バースで見つかった呪詛板。本文の手袋の板は別の町ウーリーで発見された。 写真:Joyofmuseums / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0。表示用に縮小)

写真はイングランドの別の町、バースに残る呪詛板です。手袋の板そのものではありません。ローマ時代のブリテンでは、ウーリーだけでなくバースにも、盗難や恨みを神に託した人々の痕跡が残っています。

ウーリーの遺跡からは、メルクリウスに宛てた鉛板が数多く見つかっています。失くした品も、願い方も一つではありません。博物館は、こうした文を本人が書いたのか、代筆する人がいたのかは分かっていないとします。けれど、手袋を盗まれた怒りだけは、文字を越えてはっきり伝わってきます。

神への手紙は、生活の記録でもある

物騒な文言の向こうに見えるのは、手袋を使い、盗まれて困った一人の暮らしです。歴史に名前の残らない人の声が、鉛の薄板にだけ残った。願い事が立派でなければならないとは、当時の人も思っていなかったようです。

この話の参考資料

冒頭画像は題材から着想したイメージです。本文の実物写真の出典は画像の下に記しました。