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中央の針が指すのは南。そのまわりには、金色や赤い文字が何重にも並んでいる。ケンブリッジ大学のウィップル科学史博物館は、中国の風水で使う「羅盤(らばん)」を、南を指す磁針を持つ道具として説明している。
方角が分かったあとにも、盤の上には読むものが残る。干支(えと)や八卦(はっけ)、星空を分ける区分。土地や建物をどちらへ向けるか考えるために、地面の方角と空の情報を一つの盤へ重ねた道具なのだ。
風水では、土地や家を流れる「気」を整え、よい環境をつくろうとする。ウェルカム・コレクションの羅盤の解説も、その流れを調べて家や仕事場を設計する道具だと説明する。盤の細かな区分は、住む場所をどう整えるかという判断に関わっていた。
家の向きを測る
ウィップル科学史博物館が所蔵するのは、1850年ごろに中国で作られた羅盤だ。同館は、風水の実践者が建物などの正確な向きを定めるために使う道具と説明している。
こちらの盤には、金色の文字による同心円が21ある。現在は磁針などが失われているが、中央の磁針を収めた部分と、そのまわりへ刻まれた細かな区分が残っている。すべての羅盤が同じ環の数を持つわけではなく、これはこの所蔵品の仕様だ。
これから建てる家をどちらへ向けるか。羅盤が関わるのは、そうした配置の判断である。部屋の置物を替える話より前に、家そのものと土地の関係を測っていた。
磁針を囲む文字の輪
米国のペン博物館には、1850年ごろの中国で作られた羅盤が収蔵されている。木に漆を塗った盤で、直径は約20センチ。中央の磁針のまわりに、文字の環が並ぶ。
博物館の解説が挙げるのは、三本の線の組み合わせで表す八卦、甲子(きのえね)などの組み合わせで年や日を表す干支、星空を二十八に分ける区分などだ。方角を読む盤に、暦や空を読むための記号も並んでいる。
まず磁針で方角を確かめる。次に、その方向が周囲のどの目盛りに当たるかを見る。同じ方向に、干支の区分や星の区分を照らし合わせるため、盤にはいくつもの環が必要になる。
空を分ける星の区分まで、土地の向きを読む盤の上にある。遠い天上の話と、目の前の建物の向きが、同じ道具へ収められているのだ。

裏面に残る職人の名
ペン博物館の羅盤を裏返すと、別の文字が残る。赤く記された「林君周華記造」。作り手を示す印である。同館は林君周(リン・ジュンジョウ)を、十九世紀半ばに活動した羅盤の製作者と考えている。
星や方角を読む道具も、人が木を加工し、漆を塗り、文字を書いて仕上げたものだった。その人の仕事が、海を隔てた二つの博物館に残っている。
手のひらほどの盤に、方角、暦、星空の区分が並ぶ。それを使う人は、これから建てる家の向きを考える。裏に名を残した職人は、その細かな目盛りを木の上へ収めた。文字が多いのは飾りのためではなく、方角に重ねて読むものが多いからなのである。
この記事の参考資料
- 参考ペン博物館「Compass」所蔵番号9023
- 参考ウィップル科学史博物館「geomantic compass, by Lin Jun-zhou」所蔵番号0075
- 参考シカゴ美術館「Taoism and the Arts of China: Trigrams」八卦の線の説明
- 参考Wellcome Collection「Feng shui geometric compass」土地や住まいの気の流れを読む用途
冒頭画像:磁針を囲んで文字が並ぶ中国の羅盤の細部。Wellcome Collectionの資料。 写真・資料:作者不詳 / Wikimedia Commons(CC BY 4.0、縮小して掲載)


