ジョン・ディー、女王の星を読む危うい仕事

黒い帽子と衣服を身につけ、白いひげを伸ばしたジョン・ディーの肖像 星・運命・魂
ジョン・ディーの肖像。作者不詳、アシュモレアン博物館所蔵。 写真・資料:Unidentified painter / Wikimedia Commons(パブリックドメイン、縮小して掲載)
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王族の星を読んだと疑われ、逮捕・尋問を受けた男がいる。十六世紀のイングランドで活動したジョン・ディーだ。ところが女王が代わると、今度は新しい女王の戴冠(たいかん)にふさわしい日について相談を受ける。

星から人の行く先を読もうとする知識は、彼を危険にも近づけ、宮廷の仕事にもつないだ。数学や天文学を学び、航海にも関わったディーの経歴は、占い師という一語には収まらない。

逮捕につながった占星図

ディーは、空のどこに惑星があるかを、図にして読んだ。英国王立内科医協会の博物館は、少なくとも1550年から彼が占星図を描いていたと説明し、本人が本に書き込んだ図も紹介している。

特定の時刻の空を図へ置き換え、その配置を人の出来事と結ぶ。ディーが本へ書き込んだ占星図には、線や記号を描き、空の配置を読み取ろうとした手の跡が残る。

その仕事が、宮廷では危険を招いた。「Archaeology of Reading(アーキオロジー・オブ・リーディング)」の伝記によれば、女王メアリ一世の時代、王族の占星図を作ったという疑いは、陰謀への疑念とも結びつき、ディーは逮捕・尋問を受けている。

空の配置を調べる行為が、誰の未来を読むかによって、政治の問題になってしまう。

戴冠(たいかん)の日を選ぶ

エリザベス一世が戴冠したのは1559年。英国王立内科医協会の博物館によれば、女王の側近ロバート・ダドリーが、戴冠にふさわしい日についてディーの助言を求めたという。蔵書の書き込みを調べる研究プロジェクト「Archaeology of Reading」も、この相談について紹介している。

誕生日の星を読む占いが、生まれた瞬間を出発点にするなら、こちらは、これから始める出来事の時を選ぶ占いだ。人の出生には後から手を加えられないが、式を始める日なら選ぶ余地がある。その違いが、占星術師へ尋ねる理由になる。

ただ、助言を求められたという記録から、式の日付をディー一人が決定したとまでは言えない。ここで見えてくるのは、新しい女王の治世を始める日が、占星術の相談にもなったという事実だ。

航海の数学と天使への問い

ディーの仕事は、占星図の中だけに収まらない。英国王立グリニッジ博物館は、彼が航海に必要な数学や地理の知識を広めた面にも目を向けている。

海を進むには、位置や距離を考える知識が要る。ディーは、航海を計画する商人たちとも関わっていた。学んだ数学を、船を出す仕事にも、人や国家の行く先を考える仕事にも使おうとしていたのである。

その一方で、彼は目に見えない天使の力にも近づこうとし、霊媒(れいばい)のエドワード・ケリーと活動した。同じ人物の中に、測るための計算と、目に見える世界を超えて知ろうとする探求があった。

蔵書の余白をたどる

ロンドン郊外のモートレイクに構えた住まいで、ディーは大きな蔵書を育てた。数学や天文学、医学、錬金術(れんきんじゅつ)などの本を集め、読み、余白に書き込んだという。

細かな筆記体で書かれた、ジョン・ディーからエリザベス一世への手紙
ディーがエリザベス一世に宛てた手紙(1588年)。大英図書館所蔵。 写真・資料:John Dee / Wikimedia Commons(パブリックドメイン、縮小して掲載)

その書き込みを追う研究では、彼が何を知ろうとしたかだけでなく、本の間をどう行き来したかも調べられている。ディーは、王族の未来も、船の行き先も、天使の言葉も知ろうとした。そのために集めた本には、読みながら引いた線や計算が残る。何を知ろうとしたのかを、いまは別の人がその余白から読み取っている。

この記事の参考資料

冒頭画像:ジョン・ディーの肖像。作者不詳、アシュモレアン博物館所蔵。 写真・資料:Unidentified painter / Wikimedia Commons(パブリックドメイン、縮小して掲載)